【File No.5】大脱出(後編)

大脱出(後編)

 

 

小学生の時、スティーブ・マックイーンの大脱走をテレビで見た。

映画の中でマックイーンが見せた大ジャンプは、

今みると大したアクションではないのだが、当時、多くの男達の心を揺さぶった。

 

その映画でマックイーンの魅力に嵌った私は、

「荒野の7人」「ネバダ・スミス」「ブリット」と

スクリーンの中の彼の個性豊かな演技とかっこ良さに完全に虜にさせられてしまった。

 

録画機がまだ高価な品で家に無かった頃、

年末に特別ロードショーでテレビ放映された「大脱走」を

カセットに録音して毎日聞きながら寝ていた程、私はマックイーンが大好きでした。

 

by Bison

 

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ロンのバイクの車輪は突っ込んで来た勢いで

強引に溝に嵌り込んでいて容易にそれが外れる事は無い。

 

ハーレーのV型2気筒の大きなボア・ストロークが

エンジンにず太いトルクを生み出し、

ロンを乗せた車体を垂直方向に力強く押し上げて行く。

 

地下に作られたこの基地は地上には一階部しか姿を現しておらず、

その地上1階がエレベーターの到着地点になる。

 

その広い1階エレベーター・ホールには

30名程の武器を構えた兵士達が昇ってくるロンを仕留めるべく

銃口を一点に集中して迎え撃つ。

 

「奴が出てきたら一斉射撃だ!」

 

指揮官らしき人物が兵士全員に届きわたる大きな声で指示を出す。

 

しかし・・・

どうやって出てくるのだろう

照準をそこに合わせて待っている

それぞれの兵士達の脳裏に

同じ疑問がよぎる。

 

一方ロンの頭の中では、、

Van Halen の I Can’t Stop Loving You

がパンチの効いたリズムで

脳ミソを心地よく刺激する。

 

(※ こちらの曲を聴きながらお楽しみください)

 

何かを楽しんでいる子供のようなニヤケ顔で

再びスロットルをロックさせ

太ももで自身の体重をホールドすると

INSIST・カイザーを抜き取り

エレベーターの終着点の天井の4隅に

ワイルド・Bisonをぶち込んだ。

 

一発発射される度に

その凄まじい反動が

バイクごとロンを下方向に押し下げる。

 

レールに食い込んだホイールが

一層鮮やかに火花を撒き散らし

弾丸の発射に相応して

金属音の悲鳴を高鳴らせる。

 

4発の弾丸で4隅に大きく開いた穴から

天空の光が

導くように差し込んでくる。

 

そして残った最後の1発が

4隅の中心に撃ち込まれた瞬間

天井の鉄板は、強引に毟り取られるように

無慚な残骸となって天空に吹き飛んだ。

 

次の瞬間、

 

ロンのハーレーが地中から天空へと勢い良く飛び出した。

 

ビル5階程の高さまで舞い上がったロンは

その頂点に達するや

体重移動でバイクを平行にすると

右手でカイザーを抜き取り

片手で勢い良くブレイクさせた

空高く ブレイクしたフレームから

用を終えたシリンダーが

自ら重力に引かれ

ぎらつく太陽の光を反射させ

ゆっくりと回転しながら舞い落ちる。

 

既に落下運動に転じたハーレーに

仁王立ちしたロンの左手が、

フライト・ジャケットのポケットにある

スペアシリンダを掴み取り、

右手で保持するカイザーに装填する。

 

装填を終えると再びINSISTをホルスターに収め

着地に備えて身を構える

強化されたフロント・フォークと

リヤ・ショックが激しく衝撃を吸収し

ハーレーは大地をしっかりと踏みしめて

地面を大きく蹴り出し

駿馬の如く駆け出した

意表をつかれた兵士達は、ホールから一斉に出入り口に向かって走り出し、

出入り口の反対側に位置するエレベーター外壁周りに集結するが、

爆薬で吹き飛ばされたかのような天井の残骸が、周辺に散乱してあるだけで

ロンの姿は既にそこには無かった。

 

ロンは、基地施設のゲートへ向けてハーレーを走らせていた。

 

ゲート付近には、数10名の兵士が銃口を向けて立ちふさがる。

マッド・マックスのそれに似たホルスターから

再びINSIST・カイザーを右手で抜き取ったロンは、

300m先に横一列に並んだ兵士達を両脇からワンハンド・ショットで順に撃ち抜いていく。

 

兵士達の武器を的確に撃ち抜いている弾丸は

分厚い鉄板をぶち抜いたワイルド・Bisonではない。

 

ロンは先のシリンダー交換の際、

威力を抑えた44口径のノーマルシリンダーを装填していた。

 

兵士達との距離100m。

 

6発撃ち終えると右手でカイザーをブレイクさせながら

左手でハンドルを急角度で切り返し

ニーグリップで車体を寝かせ

ノーブレーキで

一気にドリフト体勢に持ち込む

勢い良く回転する2本のタイヤが

大地を鋭くえぐり込みながら

激しい砂煙を巻き上げる

 

ハーレーは

大地の抵抗に徐々にスピードを奪われ

敵陣列へなだれ込んで

息を切らす

 

止まるまでの数秒間の動作の中でロンは、

ドリフトするハーレーを左手一本で支えたまま、

ブレイクして空になったシリンダーを

右腕の反動だけで取り除き、

右足を女の子がゴムとびをする時のような感じで折り曲げ、

太ももとふくらはぎでブレイクしたINSISTを器用に挟み込むと、

右手でジャンパー・ポケットから更なるスペア・シリンダーを取り出し、

ハンドルを保持した左手を全く使う事無く

右手1本のみで装填を完了していた。

 

兵士達は舞い上がった砂煙で照準が定まらず

中には砂煙が目に飛び込んで目を開ける事すら

ままならない兵士も・・・

舞い降りる砂煙の中から横向きに停車したハーレーが

鮮明に姿を現した時

右手で突きつけられたロンのINSIST・カイザーで

兵士達は武器を撃ちぬかれていた。

 

再び大地を蹴って走り出したハーレーは、

ゲートを飛び出し一直線に伸びる舗装道路へ飛び込む。

 

 

その後を追ってバイクに跨った兵士達も慌しく次々とゲートから飛び出して行く。

 

バックミラーでそれを確認したロンは、

アクセル・グリップの付け根に付いているボタンに親指をあてた。

 

ロンのハーレーのリヤシート両部にはサイドバックが付いていて、

その片側にはボンベが搭載されており、

それがキャブのインテーク・マニホールド部分に取り付けられた噴射ノズルまで

何げにステンレス・パイプで繋がっている。

 

「ついてこれるもんなら ついてきやがれ!」

 

そう言って親指でボタンを押した瞬間、

エンジン燃焼室内に大量のニトロが気流となって吹き込まれた。

 

エンジンは唸りを上げ

タコメーターは跳ね上がり

リヤ・タイヤは急激なホイールスピンを引き起こし

路面にブラック・マークを刻みながら

放たれた矢の如く一気に加速し

一直線の路面に

太く長いブラック・マークだけ残して

兵士達の視界から消え去った

 

追撃兵を完全に振り切ったロンのバイクの上空に

Destiny 仕様にカラーリングされたMi-24 ハインドヘリコプターが現れ、

 

 

兵員輸送室部が下に開きロンは走りながらそこに回収されていった。

澄みきった青空に

Mi-24 ハインドの鮮やかなカラーリングが映え

Van Halen の I Can’t Stop Loving You が響き渡る。

 

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※ このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。

ストーリーはフィクションであり

実在する国家・団体・企業・HP・個人等とは一切関係ありません。