【File No.4】大脱出(前編)

大脱出(前編)

 

ネバダ州ラスベガスの北西150kmに位置するエリア51。

 

 

その存在は今日まで様々な噂を生み出し、

絶えず世間を騒がしてきた。

地上にはこれといった施設はなく、

世界最長と言われる8kmに及ぶ長い滑走路や

軍用機を格納出来る建物が点々と存在するだけで、

そのメインとなる施設は地下深くに広がって造られている。

 

地下10階と福岡ドームがすっぽり納まるスケールで築き上げられたこの秘密軍事基地は、

24時間厳重な警備が敷かれ、決して世間の物達を近づけない。

 

その地下8階に

外部から取り寄せた様々な物資、機材、材料等を保管する第4格納庫が設けられている。

 

そこに一昨日搬入した3m程のしっかりとした造りの木箱があり、

それがニコラがロンに言っていた贈り物である。

 

既に基地内では外部浸入者の存在を基地全内に知らせるべく

警報ベルがけたたましく鳴り響いており、

一台のバイクが爆音を轟かせて地下8階通路を派手に駆け巡っていた。

 

贈り物の中身がロン愛用の

ハーレー・ダッビットソン

ダイナ・スーパーグライド・カスタム

であった事は言うまでも無いが、

彼は今、目的の「ブツ」を手中に収め、

地上に生還すべく沸いて出る兵士達を振り切っての大脱出劇を演出していた。

 

地下8階エレベーターへ通ずる通路は様々で、

中でも基地北側から中心に向けて走っている通路は、

第4格納庫からエレベーター・ホールを一直線で突き抜けている。

 

その格納庫から爆進してきたロンのハーレーは、

リヤのタイヤを完全にロックさせ

車体は完全に横向き、

クランクケースが通路の床をなめながら

一定の傾斜角度を保ったまま、

まるで氷上を滑るかの如く

綺麗に流れながらホール入り口に迫り来る。

 

大型エレベーターがあるメインフロアの入り口と

ロンのバイクの位置が重なった瞬間、

それまで抜いていたスロットルを一気に廻し、

吹き上がったエンジン動力を

クラッチの絶妙のタイミングで

リヤタイヤに駆動伝達させる。

 

ぶっといゴムの固まりが

黒煙を上げ床面を思いっきり蹴り上げて、

流れて来た水平ラインから垂直に鋭く立ち上がる。

 

スロットルをオート・クルージングでロックしたロンは、

右太ももにしっかりと固定されているホルスターから

INSIST・カイザーを抜き出し両手で構え、

腰をシートにしっかりと沈めると

ハーレーの暴風ガラス越しに見える

分厚いエレベーターの扉に照準を構え、

真っ直ぐに突き出した両腕を力の限り絞り込んで

一気にトリガーを引く。

 

物凄い轟音と衝撃が

その場の空間を破裂させ、

息を吹き込まれた弾丸が

暴風ガラスを吹き飛ばし

火花を撒き散らし

荒れ狂う猛牛の如く突き進む。

 

鋭く太い弾丸ラインは鋼鉄製エレベータの扉を大きくぶち抜き、

着弾衝撃が更に扉をねじ伏せ、

ねじ倒された扉は

無慚にも音を立てて更に地中へと崩れ落ちる。

 

ロンが放った豪快な1発の弾丸。

 

それは凶暴なワイルド・キャット弾を

遥かに上回る威力を持つ

ワイルド・Bison (弾)であった。

カイザーをホルスターに収めたロンは、

クラッチミートとアクセルワークでバイクをウイリー状態に持っていき

扉の抜けたエレベーターへ勢いよく飛び込んだ。

 

「間抜けな野郎だ、エレベーターは最下部に降ろしてあるんだ。自ら落ちこみやがった」

 

兵士がエレベーターを覗き込もうと近寄った瞬間、

爆音を轟かせバイクが垂直に駆け上がって来る。

 

「そ、そんな馬鹿な・・・」

 

兵士は有り得ないその光景に尻餅を付いて驚き、口を開けたまま唖然としてる。

 

その昔、ワイルド7という漫画があった。

その中に出てくる八百(はっぴゃく)という男は、

いつもクールにダンディーに男の世界をかもし出した。

その八百が乗るバイクはクランク・ケースの下に2本のタイヤを平行装備しており、

飛び出しが利くそのタイヤを使ってヤモリのように、バイクが壁を這い上がる。

八百のあの独特な走りはもう見れない・・・・

 


ワイルド7 八百

 

だが、今ロンが走っているその走法は

正にあの時八百が見せてくれた

あのヤモリ走法を彷彿とさせる独創性あふれるライディング。

 

しかし、ロンのハーレーには八百のバイクに装備されていたような

平行2輪は付いていない。

なのに何故バイクは垂直に這い上がってくるのか・・・

 

ロンは潜伏の間、まず自身の脱出ルートを見いだす為、

基地内の隅々まで調べていく。

このエレベーターの支柱となって走っている数本のレールの幅まで念入りに計り、

どのレールの溝が自身のバイクのホイール幅と一致するかまで頭に入っている。

そのレールめがけてバイクを縦にウイリーさせた状態で突っ込む事で

前後2本の車輪ホイールを同時に食い込ませていた。

 

レールに強引に嵌りこんだ車輪ホイールは、

金属と金属が激しくこすれ合い

異常な発熱で真っ赤に染まり、

火花と耳障りな激しい金属音をあげながら、

バイクを重力に逆らって上へ上へと突き進める。

 

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※ このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。

ストーリーはフィクションであり

実在する国家・団体・企業・HP・個人等とは一切関係ありません。