
プロローグ
アメリカ・テキサス州
人口はカリフォルニア州、面積はアラスカ州に次いで全米第2位の州である。
ケネディーが暗殺されたあのダラスがある州と言った方が分かりやすいかもしれない。
土地も家賃も物価も税金も、何もかもが高すぎるカリフォルニア州と比べると、
テキサス州は土地も広く、物価も安い。
そのなかでも米国で最も豊かな都市、Planoには、
多くのトップ企業が本社を構えており、ダラスエリアで人気の出張先になっている。
あのTOYOTAも 2016年をめどに、アメリカのカリフォルニア州トーランスから
テキサス州Planoへの移転が決まっている。
ダラス北郊のコリン郡に位置するPlanoはプレイノもしくはプラーノと表記される。
そのプラーノの郊外にひっそりとたたずむ古ぼけた木造2階建ての建物。
その1階部が私の工房である。
工房の名は「GUN・スミス・Bison」
アメリカでは拳銃をカスタム・チューニングする職種をGUN・スミスと言う。
私もそのGUN・スミスの一人で、
私が手がけるGUNを「カスタム・Bison」という。
朝食を終えいつものように作業前のコーヒータイムをくつろいでいると、
ジェット機でも突っ込んできたのかと思う程の爆音を轟かせて表に一台の車が駐車した。
激しく自己主張するその車のオーラが
作業場の窓ごしから強引な程に突き刺さしてくる。
それが世界で最も高い市販車と言われているランボルギーニ・ヴェネーノや
ブガッティ・ヴェイロン(2~4億円)をゆうに上回る
8億円もする化け物、マイバッハ、エクセレロであることが
車好きの私の目を疑わせる。
手にしていたコーヒーカップをテーブルに荒々しく置くや、
まるで強力な磁力に吸い付けられているかのように窓辺に張り付き、
食い入るように見つめる両目は完全に見開いていた。
「すげぇ~」
見るものを圧倒する存在感。
「これがあのマイバッハ エクセレロか・・・」
ギラギラと黒光りするボディーのドアーが開いた。
どんな奴が出てくるのか私の興味は深々だった。
降りてきた男に太陽の光線がしいたげられ
大地に大きな影ができた。
まるで北斗ケンシロウかと見間違わんばかりのがたいに
黒のロングコート。
松田優作を思わせるグラサン顔。
のっさりと運転席から降りてきたその男が
私の工房の扉を開けた。
まるで格子戸をくぐるような格好で
工房の玄関ドアから侵入してきたその大男が、
どういう関係の人間かは、直ぐに見て取れた。
「Bisonさんの工房ってこちらですか?」
ズ太い低音で私に話しかけてきた。
さっきまでの興奮が一瞬でさめた。
「誰に聞いてやってきた?」
「ケイクです」
ケイク・アート、私がよく知る人物である。
「ケイクの紹介かぁ・・・」
ケイクは私が造るカスタム・Bisonの数少ない使い手。
この男は銃の製作依頼に来たのだと私は悟った。
その男が右手に持っていた大きなアタッシュケースを
工房のカウンターにのせ、
開いてみせた銃はS&WのM-500。
S&W社が開発した超大型回転式拳銃。
使用する50口径のマグナム弾は44マグナム弾の約3倍の威力を誇るといわれる。
市販されている拳銃用弾薬では最強と呼んで差し支えない。
「おまえさんに良く似合ったGUNだな」
特大フレームであるXフレームを使用したこのヘビーなGUNは、
並の人間では振り回せない。
「こいつをカスタマイドして欲しい」
私は工房を構えてはいるものの、看板は出していない。
一般人向けのカスタム製作は受けていないからだ。
ごく限られた一部の人間からしか製作依頼は受けていない。
「ケイクの紹介かぁ~ 困ったなぁ~」
「私が簡単に製作依頼を受け付けない事は、知ってるよな?」
「知っています」
「ケイクは何と言っていた?」
「多分断られるだろう・・・・と」
「その通りだな。 悪いが断る。」
「断る理由は?」
「お前さん、血の匂いがプンプンするんだよ。
そんな奴が手にするGUNじゃないんだ、カスタム・Bisonは」
その言葉に返す言葉がない男に私は更に言った。
「おまえさんにとってGUNってなんだ?」
「身を守る為の武器であり、相手を鎮圧する為の道具・・・ですかね。」
と男は答えた。
「要するに人殺しの道具な訳だろ。」
「俺の母国日本にはその昔お侍さんって人がいてな」
「サ・ム・ラ・イ!」
「そうサムライだ。聞いたことあるだろ」
「はい、私も日系ですから」
「お侍さんは自らの刀を武士の魂として崇めたものだ。」
「魂・・・」
「偉い違いだろ。人殺しの道具と武士の魂とでは」
「その違いが分かるか、お前さんに?」
男にはその問いかけに答える術がなかった。
「その答えを言えるようになったらまた出てきな。」
しばらく無言でたたずんでいた男が諦めてケースを閉じた。
「武士の魂・・・・」
その言葉の意味するところに男は深い興味を抱いた。
「その答え、必ず見つけて出直してきます」
「お前さん、名はなんと言うんだ?」
「アドバン・J・ルーク」
「そうか。 覚えておくよ。」
というか忘れる訳がない
これ程までの存在感を漂わせる男を
私はかつて見たことがない・・・
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※ このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり
実在する国家・団体・企業・HP・個人等とは一切関係ありません。