Wild-Dancer 高速回転
もう一機のF-16は、
先行するアドバンとハマーの車を攻撃すべく
上空から徐々に高度をさげつつあった。
アドバン達は既にタイムズスクエアーに差し掛かっていた。
そこを左折した先に国連本部はある。
だが、
その左折すべき交差点の手前には、
複数台のパトカーが止められ
バリケードが築かれ特殊部隊が武器を構え待ち伏せている。
「アドバン、準備しろ」
ステアリングを握るスピード・キングが助手席のアドバンに告げた。
シブ男スピード・キング。
彼は2期目の特殊部隊「Barracuda(バラクーダ)」の四天王の一人。
残りの3人はロンとマックス、そしてキャサリンである。
その3人等と違いキングには妻と子供がいた。
しかし、その任務の激しさ故、家庭を顧みる暇すらなかった。
妻と落ち着いて話をする時間も無く、
次第に夫婦の間に隔たりが出来、
ある日一枚の紙切れだけ残し妻は一人娘を連れてキングの元を去っていった。
その一枚の書類をしみじみと眺め、キングは一人思いに耽った。
妻にいつも色んな悩みを一人で背負い込ませて申し訳なかった・・・と。
まだ幼かった娘にも何もしてやれなかった・・・。
振り返ってみると、
家族と過ごした思い出なんて数える程しか頭に浮かんでこない。
娘もさぞ寂しかったであろう。
まるで母子家庭と変わりない家庭であった。
キングは、自分の娘にしてやれなかった事、
してやりたかった事をマリーと接する中で思う存分やってきた。
そうする事でキング自身が救われた。しかし、娘や妻はどうだろう・・・。
キングの胸のポケットには、いつだって娘と妻の写真が大事にしまわれている。
準備を終えたアドバンが助手席のドア開閉スイッチを押した。
すると「ボンッ!」という音と共に、助手席側のドアが中に舞い
新鮮な空気が車内に流れ込む。
トップルーフも半分すっ飛んで
開放した半ルーフに青空が広がる。
更にシートボタンを押すと
シートが90度回転しながら
開放されたドアの方に若干突き出す位置で運転席向きに止まった。
横向きになったシートに座っているアドバンは、
センターコンソールに取り付けたM61 20mmバルカン砲のグリップを両手で握った。
6砲身の銃口は運転するキングの顔の前を通って運転席側の窓から突き出している。
M61 バルカン砲
キングは、ヘッドフォンをしてバリケードに向けてアクセルを踏み込んだ。
「いくぜっ!」
サイドブレーキを
ロックボタンを押した状態で引っ張り
ステアリングを切り込んで
マイバッハのビックボディーを思いっきり横に流す。
運転席ウインドウから突き出した6本の銃身の束が
バリケードと向き合った瞬間、
キングはギヤをニュートラルに抜いて
アクセルを踏み込む。
エンジン・ミッションとシャフト連結したガトリングが、
エンジンの回転数と同調して
唸りをあげて凄まじく回転し
猛スピードで20mm弾丸が撃ちだされる。
キングは更にアクセルを踏み込む。
回転を上げたガトリング砲は炎を吐いて
1秒間に200発の弾丸を叩き込む。
一点に過激なまでに集中連打されたバリケード役のパトカーは、
一瞬で吹き飛ばされ道が開かれた。
が、反動の凄まじさに
マイバッハはスピードを失い
パトカーを盾にして身構える特殊部隊の
ど真ん中で横向いた状態で停車した。
時間が止まったかのような
張り詰めた緊迫した空間の中心で
V型12気筒の空吹かしの重低音の
エキゾーストノイズだけが
不気味に響き渡る。
それはハンターに取り囲まれた野獣の
荒々しい息遣いにも聞こえる。
銃を構えた兵士達が
一斉射撃で獲物に襲い掛かろうとした瞬間、
マイバッハは息を吹き返す
リヤタイヤを激しくスリップさせながら
白煙を勢い良く舞い上げた。
ステアリングで押さえ込まれた車体は
テールを流して鋭くスピンしはじめ
M61バルカン砲が薬莢を撒き散らしながら
取り囲む一面のパトカーを蹴散らしていく。
タイヤが巻き上げる煙と
弾丸の発火による煙とで
あたりは一瞬にして
スモークを炊いたように覆われ
エンジンの唸り音とバルカン砲の叫び音が
その場の空気を切り刻み
タイヤの焦げる匂いと
大量の火薬の匂いが立ち込めて
一面の空間を激しく歪めた。
バルカン砲の弾丸が尽き
発射音が空転音に変わった時、
マイバッハが電光石火の
加速で飛び出した。
バルカン砲が吐き出した
大量の薬莢を踏み潰して
ハマーのFORDがその後を駆け抜けていく。
バリケードを突破したものの国連本部に向かう道路は完全に包囲されており、
そこを突破出来たにしても、
国連本部に博士を引き渡せる状況では無い事を悟ったアドバンは、
デェイ・ジーにコースの変更を告げる。
「予定変更だ、このまま直進して海岸に突き進む」
このような事態も予測していたアドバンとキングは、
あらかじめ別ルートで博士を護送する手筈も打っていた。
「OK、Bコースだな」
デェイ・ジーは、イースト川河口に待機しているDestinyの高速船と連絡をとった。
後方にはもう一機のF-16戦闘機が狙いを澄まして黒い獲物を狙っていた。
更に後方では・・・
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※ このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり
実在する国家・団体・企業・HP・個人等とは一切関係ありません。