【File No.5】故郷

故郷

 

太陽が地平線に沈み、

明かりが灯ったBison工房の前に、

一台の車が停まった。

 

車を降りたマリーが、

大きくのびをして後ろを振り返る。

 

「全然変わってないわね」

 

工房を眺めながら、

懐かしげな表情を浮かべた。

 

微笑む彼女の視線の先には、

彼女より少し遅れて車を降りた、

ケイク・アートが立っている。

 

「中はちょいと、変わってるぞ」

 

彼女に応えたケイクの顔には、いたずら小僧のような笑みが浮かんでいた。

 

「そう……。でも、やっぱりここは変わらないわ」

 

「ああ、そうだな」

 

ここも、私の我が家。

マリーの顔が、そう語っている。

ケイクもやわらかな笑みを浮かべてうなずいた。

 

二人は工房のドアを開けて中に入っていった。

重い樫の木で出来たドアが、きしみ音を立てて開く。

室内の喧騒が止み、開かれた扉へと視線が注がれる。

 

しかし、沈黙も束の間のこと。

 

入ってきた人物に気づいた途端、歓声が室内に爆発した。

 

「よぉ~~~! マリーィ~~~!」

 

最初に口火を切ったのは、無精ひげを生やした中年の男。

普段の彼からは想像もつかぬような、満面の笑みを浮かべている。

 

「ロ~ン!」

 

マリーの声に応えるかのように、ロンは大きく両手を開いた。

「カモ~ン」のポーズで、マリーを出迎える。

マリーはしっぽを振って母犬に飛びつく子犬のように、ロンの胸に飛び込んだ。

 

「会いたかったぜぇ」

 

「わたしだって!」

 

両腕で力の限りロンにしがみ付いたマリーは、ロンの両頬にキスの連打。

まるでロンの娘かと見間違う程の光景だが、これはロンに限った事ではない。

 

「マリーィ~~~~~~~~!」

 

ジェット戦闘機の如く奥のキッチンから飛び出してきたママが、

ロンを吹き飛ばしてマリーに抱きついた。

 

「ママァ~~~!」

 

ママの後にも、工房にいた皆が入れかわり立ちかわり、マリーのもとへ押しかける。

ある者はやさしく、ある者は力いっぱい彼女を抱きしめ、マリーとの再会を喜びあった。

 

皆の歓迎をひとしきり受けてから、マリーは一息つくとあたりを見回した。

工房の変化にようやく気づいたマリーが、驚きの声をあげる。

 

「凄い! ステージが出来てる!」

 

マリーの驚いた顔に満足げな表情を浮かべて、ママが大きくうなずいた。

 

「そうなのよ。ロンとパパが、二人で造ったの。凄いでしょ?

ほらほらあなた達、ぼ~としてないで。何か演奏してみせて」

 

「そのつもりなんだけど……。キーボードとベースがね……」

 

ママに促されたものの、残念そうにスピード・キングが呟く。

その時、ケイクがニコラを指差した。

 

「キーボードなら、そこに名演奏者がいるだろ?」

 

予想もしていなかったスピード・キングが、思わずニコラを見つめる。

ニコラは動じた様子もなく、穏やかに笑みを浮かべたままだ。

 

「ベースもほれ」

 

ケイクは自分が持ってきたベースを、後ろに腰掛けていたアドバンに手渡した。

 

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※ このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。

ストーリーはフィクションであり

実在する国家・団体・企業・HP・個人等とは一切関係ありません。