【File No.1】未来

 

未来

 

(※ こちらの曲を聴きながらお楽しみください)

 

Ben E. King の

Stand By Me のリズムに流されて

音もなく水面を滑るように進むカヌー。

 

 

川の流れは自由気まま。

 

そんな川の流れのラインを読みながら

そよ風と相談しながら進んでいく。

 

静かに湿原の中を進んでいくと

愉快な湿原の生き物たちが

踊りながら挨拶を交わしてくる。

 

地上とはまるで別世界。

 

見るもの聞くもの感じるもの

すべての感動に包まれて

小さなカヌーは

体の一部となって進んでいく。

 

アメリカ合衆国中央部の

10の州を通って流れるアメリカで一番長い川、

ミシシッピ。

 

「マリー、ここらでコーヒータイムとしよう」

 

その10の州の中に、観光で栄える緑豊かな土地、ミズーリ州がある。

 

「そうね。でもおじさんは、コーヒーじゃなくてビールでしょ」

 

マリー・ガーランドは、ミズーリ州最大の州立大学、

ミズーリ大学コロンビア校(UMC)に通う学生で、

大学の寮で生活をおくっている。

 

今、大学はサマー・バケーションで、

今日はグランド・ハマー と二人で水面のお散歩中。

 

マリーには沢山の優しくて逞しいおじさんがいる。

ハマーもその中の一人で、

ケイクの次に一番遊んでくれたツルツル頭の黒い肌のおじさん。

 

 

歳はケイクよりも若干若い。

 

彼女は3歳の時にテロ事件によって孤児となってしまったが、

ケイクに引き取られ、一杯の楽しいおじさん達に囲まれて、

今ではその不幸な過去を全く感じさせない

元気一杯の明るい女性へと成長している。

 

このマリーが20年後に、

第47代アメリカ大統領に就任するなど

今は知り得る者は無い。

そう、彼女自身も、、、。

 

ただ彼女は、

今を誰よりも真剣に

一生懸命生きている。

 

そして、彼女は知る。

 

真の人間らしさ、

真の優しさ、

真の男らしさ、

そして、真の正義が何たるかを。

 

それを彼女に教えてくれたのが、

彼女を取り巻くおじさん達であり、

それを知りえた彼女だからこそ、

彼女は自身の人生に、大きな大きな意味を見出し、

そして今だかつて誰もなし得なかった、

銃社会アメリカから

「一般市民の銃所有撤廃」という大偉業を

2027年4月2日に成し遂げる。

 

マリー・ガーランド、21歳。

 

マリーは、バックから水筒を取り出し、

心地よい揺らぎに身をゆだね、乾いた喉を潤す。

 

隣に並んだカヌーからハマーが、

 

「こうやって飲むビールがまた、格別にうまい!」

 

と、目を閉じて感慨無量な面持ちで大きな口を開いた。

 

ハマーは黒人特有のヘビーな筋肉質のボディーで、

見るからにいかついが、

その見てくれに隠れた、深く温和な優しさは、

いつもどんな時もマリーを包み込んだ。

 

マリーにカヌーで川を下る楽しさを教えてくれたのも彼であり、

今では彼女一人でファルトボートを背負って

折り畳み自転車で川くだりに出掛ける事もしばしばで

、、、ファルトボートというのは、

折り畳むとゴルフバッグより少し大きめの背負いバッグに入るカヌーで、

カヌーに乗る時は、逆に自転車を折り畳んで

カヌーに積み込んで川を下って行く。

 

マリーは、この広大な大地を州を跨って流れゆくミシシッピーを、

カヌーで下りながらその土地、土地の土地柄、

風習、人柄を肌で感じ取り、それを心に刻んできた。

 

彼女の目標は、在学中にこのミシシッピーを完全に制覇すること。

 

「ねぇハマーおじさん。

どうして水の上ってこんなに気持ちが安らぐのか、

私わかったの」

 

「へ~、凄いな、どうしてなんだ?」

 

ハマーは、優しく微笑み返した。

マリーは大学の授業で生物の教授が話してくれた

「f分の1の揺らぎ」の話をハマーに聞かしてあげた。

 

「f分の1の揺らぎ」とは、

そよ風や小川のせせらぎ、潮騒の音のなどに

人に心地よさをあたえるパワースペクトルが存在し

アメリカのJ.B.ジョンソンという人物が

それをf分の1ノイズ(雑音)と呼んだことから始まる。

 

音だけではなく、木の年輪や植物の葉など、

輪郭や形状など視覚で認識する物からも

この「f分の1の揺らぎ」は伝わるとされている。

 

自然界の現象だけでなく、

人間が造りだしたモノの中にもこの「f分の1の揺らぎ」は存在する。

 

例えば、絵画や彫刻、音楽などであり、

音楽の強弱やテンポ、絵画の濃淡の変化、彫刻の輪郭のラインなどの中に

「f分の1の揺らぎ」が存在するという。

 

しかし、規律正しく機械的に造りだされたモノの中には

この「f分の1の揺らぎ」は存在しない。

 

赤ちゃんが母親のお腹の中で聞く、

母親の心音もまさにこの「f分の1の揺らぎ」を奏でている。

 

「マリーは、大自然の中で水に揺られている時、

お母さんの存在を感じているんだな」

 

「うん」

 

暖かい春の陽気が

水面に揺らぐ二人を優しく包み込む

 

If the sky that we look upon
Should tumble and fall
Or the mountain should crumble
To the sea

 

(見上げればいつもそこにある空が
たとえ崩れ落ちてきたとしても
たとえば山が 海の中に崩れ落ちてしまったとしても )

 

I won’t cry, I won’t cry
No, I won’t shed a tear
Just as long as you stand
Stand by me, and

 

(私は泣かない 泣いたりしない
涙なんか 流したりしない
ただあなたが私のそばに いてくれる限りはね)

 

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※ このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。

ストーリーはフィクションであり

実在する国家・団体・企業・HP・個人等とは一切関係ありません。