【File No.4】炸裂

炸裂

 

Justice情報局局長ケイク・アートは、

ロンがエリア51から持ち出した資料を更に明確にする為に、

ある人物に合うべく秘書のキャサリン・ローズと共にワシントンD.C.のとある地下鉄駅ホーム内にいた。

 

 

ワシントンD.C.は、

アメリカの首都だけにホワイトハウス、国防総省(ペンタゴン)、

連邦議会議事堂、連邦最高裁判所、などの行政機関が集中している。

FBIの本部もここにある。

 

清潔な計画都市のイメージとは裏腹に、

全米有数の犯罪都市のひとつでもある。

 

平日のラッシュアワーを過ぎた時間帯ではあるが、

それでも駅構内はビジネスマンや行政機関に用を持つ人達が急ぎ足で騒がしく動き回る。

 

その流れに沿って停車中の電車にケイクは乗り込もうとしていた。

 

「待って、ケイク!」

 

右手を伸ばして真っ白なタイトスーツの袖をめくり、

腕時計で時間を確認したブロンドヘヤーのキャサリンがケイクに告げた。

 

 

「それじゃないわ、次の電車よ」

 

濃いグリーン系の渋めのジャケットに

ベージュのツータックのバギーパンツ姿で、

両手をズボンのポケットに突っ込み、

のそのそと列車から出てきたケイクは、スラリとした背格好。

 

岩城滉一とクリント・イースト・ウッドを足して踏んずけたような顔立ちで、

 

 

彫りの深い眼は、どこか遠くを見据えているようにも、

単にぼ~としているようにも見える。

物静かで落ち着き払った彼の風貌は、

一緒にいる者に不思議な安堵感すらもたらす。

 

そんなケイクは既に45歳を過ぎた中年独身男である。

歳の事を言えばキャサリンは怒るので彼女の年齢は30前後とでも言っておくが、

彼女のケイクの秘書暦は長い。

 

今でこそ人材も豊富なJusticeだが、

ケイクが現役で活動していた頃は

特殊部隊のDestinyはまだ結成されておらず、

Justice上層部に特殊部隊の必要性を強く訴えてきたケイクは

自らの手で特殊部隊Reverie(レヴェリ)を作り上げた。

 

Reverieは、戦闘を専門で行う部隊だけに、

DELTA FORCEやSWATから引き抜かれた20代の先鋭達によって形成されていたが、

30代に入ってケイクはReverieを特殊部隊から情報機関に転換し、

後輩のロンに新たな特殊部隊Barracuda(バラクーダ)を結成させ、

自らはワシントンを中心とした東海岸を拠点とした活動を

Reverieのメンバー等と共に展開するようになる。

 

そのロンも去年からBarracudaを西海岸を拠点とした情報機関に転換し、

後輩のアドバンにDestiny(デスティニー)という名で特殊部隊を引き継がせている。

 

現在のJusticeの組織構成は、

 

Reverie—東海岸を拠点とした情報機関
Barracuda—西海岸を拠点とした情報機関
Destiny—特殊部隊

 

となっており、それにニコラを中心とした

ドイツKampfer(ケンファー)支局が欧州情報機関として存在する。

 

これだけ組織が整った現在、

ケイクは自らが捜査に出向く事よりも、

むしろ組織の管理と人材の育成に多くの時間と労力を費やしている。

 

そんな彼が今、

自ら足を運んで会おうとしている人物は、

国防総省の長官をも勤めてきた大物人物。

 

(※ こちらの曲を聴きながらお楽しみください)

 

ケイクとキャサリンはホームの中央付近で次の電車が来るのを待っていた。

 

「それにしてもこの電車、なかなか発車しないわね。何かあったのかしら、、、」

 

キャサリンは胸のポケットに収めている小型情報受信機の

イヤホンを耳にセットして受信エリアを切り替え、

地下鉄管制室の交信電波をキャッチした。

 

「やっぱりトラぶってる、、、」

 

と、その時、別の電波で荒々しい叫び声が飛び込んできた。

その発信者が次にホームに入ってくる電車の運転手の声である事は、

叫んでいる言葉を聴けば直ぐに分かった。

 

「緊急事態発生! 列車が止まりません!」

「ブレーキが完全にいかれてやがる!」

「緊急事態!」

 

「ケイク大変よ!」

 

キャサリンが事態をケイクに告げ、

停車している電車に乗っている乗客に対して非難を呼びかけるのと同時に、

駅のアナウンスも緊急事態を告げた。

 

「列車が暴走してきます! 直ちに下車して下さい!」

 

ホーム内は一気にごった返し

電車の乗車口に雪崩のように大勢の乗客が押し寄せ

皆必死の形相で我先にと押し合う。

 

そんな状況をよそ目にケイクは一人

停車中の電車の最後尾に向かって静かに歩きだした。

 

最後尾を過ぎた所でホームから線路に身を降ろすと

ジャケット下のホルスターから銃を抜き取り

暗闇に向かって線路の枕木を一歩一歩踏みしみて行く。

 

暗闇の中から

暴走してくる列車の、叫び声にも似た警笛が

鼓膜を突き破る程の大音量で鳴り響く。

 

まばゆい程の列車のライトが

暗闇を切り裂き

ケイクの視界は

一瞬、白一色に飛んだ。

 

しかめっつらで

突進してくる列車に立ちふさがったケイクは

列車に対して平行にスタンスを取り

左手はズボンに突っ込んだまま右手一本でシーザーを構えた。

 

次の瞬間

 

ケイクはサイティングした右手を降ろした。

ズボンに突っ込んだ左手をジャケットの胸ポケットに持って行き

 

「まぶしくて見えねぇって」

 

そうつぶやくと、

無造作に取り出したサングラスを掛け

左手をダラリとたらしたまま

再び右手一本で荒れ狂う獣を迎え撃つ。

 

如何なる状況下にあろうとも

決して動揺することのない男

 

それがケイク・アート

 

ケイクは腰を沈めて反動にそなえるでもなく

肩幅に縦に開いた両足は

無防備なまでに自然体で

上半身を支える。

 

普通、マグナム系の大口径リボルバーは

スタンスを横に取り

腰を沈めて両腕で絞り込むように

して撃たなければ

その反動で腕ごと持っていかれてしまう。

 

しかし、今のケイクの姿勢は

全てに於いて相反している。

 

まるで、ダーツでも投げるかのようなフォームで

完全に力が抜けきっている。

 

暗闇から狂ったように悲鳴をあげて突進してきた暴走列車が

ケイクを飲み込もうとしたその時

 

悪魔の皇帝が雄叫びをあげた。

 

その音量は列車の警笛をはじき返す程の凄まじさで

列車のライトが放つ真っ白な光のエネルギーと

シーザーの真っ赤な爆発エネルギーとが

真正面から激しく激突した。

 

シーザーが放った弾丸は、

列車の左側、ケイクから見て列車の右車輪前方にある

図太いレールをぶち切って

ムシリ取られたレールが変形し跳ね上がった。

 

跳ね上がったレールの上を

次々と列車の片車輪が火花を上げて突き抜けていく。

 

車両はねじれながら線路から離脱し

停車している列車の隣線路上の空いたスペースに

横倒しになって次から次へとホームになだれ込んで止まった。

 

ケイクは、両足を大きく横に開いて腰を沈め

シーザーを握りしめた右腕は片ごとダラリと前に垂らしている。

ワイルド・Bisonを放った時のフォームとは一変しているものの

力が完全に抜け切っている状態である事には変わりはない。

 

一瞬の出来事の中で

ケイクがどういった身のこなしをしたのか

炸裂する光のエネルギーの中で

それを確認できる物はいなかった。

 

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※ このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。

ストーリーはフィクションであり

実在する国家・団体・企業・HP・個人等とは一切関係ありません。